『プライド』について(2)

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イギリスの劇作家アレクシ・ケイ・キャンベルさんは『プライド』日本初演の初日に向け、129日から一週間、東京に滞在されました。チームの一員となって稽古にも参加され、江東区新大橋のリハーサルルームで、街場の焼き鳥屋で、中華料理屋で、キャスト/スタッフと積極的に交流していただきました。劇作家との共同作業というのは、20年近くになるtptの歴史のなかでも初めてのことです。アレクシさんは、もともと俳優として活動なさっていたせいか、言葉の壁を難なく超え、ごく自然に稽古場の空気に溶け込み、彼のあたたかな存在はチーム全員にとってたいへん大きな勇気と自信とをもたらしてくれました。今回の公演にあたってのアレクシさんからのメッセージをここに掲載します。

 

The Prideについて、いくつか思うこと

『プライド』The Prideを 書くにあたり、初期衝動のどこかに相当の怒りがあったのだと思います。それがある一つのことがらに対する怒りであったのだとすれば、それは、社会があらゆる種類のステレオタイプを執拗なまでに要求するという点です。わたしたちは怠惰でいられるよう、安心していられるよう、様々な「ステレオタイプ」をつくります。「あいまい」ほど、人に脅威を与えるものはないからです。すべての人間の内なるファシストが好む色は二つあります──白と黒です。中間色はありません。

ですが現実の人間は、当然ながら、その二色のあわいの豊かで多様な色相に存在します。「汝自身を知れ」と、デルポイの神殿には記されています。自分を知ろうとすることだけが、人生になんらかの意味を与えるのです。ほんとうの愛を求めることも同様です。が、ひょっとすると両者は表裏一体なのかもしれません。

そこでわたしは、二つの異なる時代を生きる何人かの登場人物を生み出そうと考えました。各時代において彼らは、自分をすこしでもよく知ろう、そして互いにつながり合おうと闘います。1950年代において、その障壁となるのは、理解できないものを偏執的に 恐怖する社会、そして社会規範からの逸脱を怖れる行動規範です。そしてのちの時代、現代における障壁は、市場原理が支配する社会、その一員になるために自身のコアな欲求に誠実でいることをやめなければならない社会、あらゆるものが交換可能だ、あらゆることが商取引だと唱えられている社会です。もしかすると後者は前者に対するレスポンスなのかもしれません──暗黙のものは露骨なものとなり、隠れていたものはあからさまなものとなり、秘められていたものはけたたましいものとなるのです。どちらの時代でも、大切なものは失われます。そしてどちらの時代でも、正直に向き合うことを求める闘いこそ、困難とはいえ、唯一取り組む価値のある闘いなのです。

わたしにとってハッピーエンディングとは、登場人物が自分について、自分を追い立てる様々な力について、物語が始まる時点では知らなかったことがらを知るということです。それは正しい方向への第一歩です。自覚するということです。

わたしは長年、俳優として活動したのち、劇作に転向しました。その際、どのような立場であれ、自分は常に物語芸術に関わっていたかったのだと気づきました。励みになったのは、舞台俳優としての経験が作家としてのわたしの声を豊かなものにしていたということです。わたしは演技を通じ、劇作のすべてを学んだのです──構造について、人物造形について、台詞のやり取りについて。そしていよいよ劇作に取りかかろうと決心したわたしは、一つの役を具現化するのではなく、多くの役の立場に身を置き、彼らの多くの声を見出そうと試みました。

わたしの作品が日本で上演されると知り、たいへんうれしく思っています。わたしは以前より日本国の文化に惹かれてきましたし、その芸術、文学、映画を通じて、彼方よりあこがれを抱いてきました。イギリス同様、島国である日本は、豊かで複雑な歴史をもち、この50年ほどのあいだに、とてつもなく大きな社会の変化を経験しました。今回日本を訪れ、『プライド』という作品が日本で歩む人生に関わることができ、たいへん興奮しています。キャスト、クリエイティブチームのみなさま、公演のご成功をお祈りいたします。東京の観客のみなさま、日本初お目見得となるわたしの作品をどうぞごらんください。お楽しみいただければさいわいです。

心をこめて

アレクシ・ケイ・キャンベル

このブログ記事について

このページは、tptが2011年12月22日 15:59に書いたブログ記事です。

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