28日、本日も休演日。そして明日から。

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9月28日、本日も休演日です。そして明日から、「コレクション」が初日を迎えます。連日、休演日にも関わらず「恋人」カンパニーも稽古を見ながら、全体主義的に頑張ってます。悪い意味でなく。

今日は今回のPinter WAVE!のまさにキーパーソン、ハロルド・ピンターのことについて。いや、僕自身もまだまだこれから、皆様から叱咤激励されるつもりでの始まりとさせてください。

集英社新書より喜志哲雄さん編訳のこの本、ハロルド・ピンターの発言をまとめた”「何も起こりはしなかった」ー劇の言葉、政治の言葉”をご紹介させていただきます。僕自身、とても興味深く読まさせていただきました。それは僕の一人よがりかもしれませんが、とても分かりやすいという感想です。

私たちは彼の育ったイギリスと肩をならべるほど、アメリカと友好関係にあります。しかし比較すれば、私たちは中国共産化に対するアジア圏での極東の基地として、より経済的には好条件だったでしょうし、日本国憲法第9条のおかげでイラク戦争にも実戦参加せずにいられたという、先人達の努力のおかげでのほほんとしてられるのかもしれません。彼の言葉を読むと同じ様な友好関係をアメリカと結んでいる日本人として胸がしめつけられるのです。この本を読むとイギリス人としてどうアメリカに従属していっていいのかというピンターの祖国への”憂国”が伝わってきます。そして彼が戦後の冷戦体制の崩壊、それ以降の世界秩序を説明するにあたり、”イデオロギーなき時代に、大義名分を失った超大国がどう自分を正当化するのか”という彼のアメリカを観察する視点は、分かりやすいものでセンセーショナルです。今より少し過去の出来事、イラク戦争を含め、あまりにも世界を観る自分が安穏としていたという自戒を持たされるほどです。

彼はアメリカの行う、その大義名分を”嘘のタペストリー”と表現しました。それは巧妙でうまく人に”正義”を信じさせています。確かにそうだ、僕だって物心つかない頃にミグが亡命してきたことやらあったのに、ベルリンの壁がなくなって子供心ながらどこかに安心があって”安全”があったように思ってました。戦争の危険性はなくなったけど、紛争はなくなっていない。同義なのに。中強度紛争以下というだけなのに。イデオロギーによる戦いという大義名分をなくした今、パワーオブ”オフ”バランスになって、ダントツで軍事をもてあそぶ国家はなにをもって正当性を主張するのかというロジックを彼は冷静に観ていたように思うのです。

ピンターは晩年になり、より政治的な発言、もしくは行動をしたようですが、この点でも僕は好感が持てます。世の中には社会派と呼ばれ、自分のナルシスト的な感情によって社会的地位をのし上がったように感じてしまう作家もいますが、ピンターにはそういう感じがしないのです。なぜなら、「恋人」も、「コレクション」も、「背信」も身近にあるかもしれない人間の関係の危険性を感じさせるもので、それはとても小さな社会、家族であったり、恋人であったり、友人であったりの”人をどう受け入れるのか”という問題を扱って、それを世界的な規模の”愛”ということに結びつけている人という実感がするからです。

引用させていただきます。この本での彼のノーベル文学賞記念講演で彼が読み上げた、彼自身の詩「死」です。100個のパンを半分分けることは容易かもしれません。この詩を読むと、彼がひとつのパンでも分け与えることのできる人物のように思えるのです。僕たちは世界規模での”幸せ”の再分配にはあまりにも無関心、もしくは無視をしているのかもしれません。でもピンターはまずちょっとした心づもりからと教えてくれたように感じるのです。

どこで死体は見つけられたのか?
誰が死体を見つけたのか?
死体は見つけられたとき死んでいたのか?
どうやって死体は見つけられたのか?

誰だったのか、その死体は?
誰だったのか、その見捨てられた死体の
父親や娘や兄や
叔父や妹や母親や息子は?

見捨てられたとき、その死体は死んでいたのか?
その死体は見捨てられたのか?

その死体は裸だったか、それとも旅支度を身に着けていたか?

なぜあなたはその死体が死んでいると決めたのか?
あなたはその死体が死んでいると決めたのか?
あなたはその死体をどれほどよく知っていたのか?
あなたはどうやってその死体が死んでいること知ったのか?

あなたはその死体を洗ったか
あなたはその両目を閉ざしたか
あなたはそれを葬ったか
あなたはそのまま捨ておいたか
あなたはその死体にくちづけしたか

このブログ記事について

このページは、tptが2010年9月28日 06:13に書いたブログ記事です。

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